インストラクター育成で大事にしていること
加藤大典ブログ
スキューバダイビングインストラクターは、スキューバダイビングの楽しさや安全を司るキーパーソンであります。
ダイビングインストラクターには、様々な能力が必要とされます。
このブログでは、その中でも、『安全を伝え管理するエデュケーター』としての能力開発についてお伝えしたいと思います。
『安全を伝え管理するエデュケーター』として大切なことは何か?
まず一番は、インストラクター候補生がインストラクターになった後に応用力を活かすことができるようになるための指導していくということです。
IDC(インストラクター開発コース)では、インストラクションを行う必要最低限のことしか伝えられません。
もちろん伝え方についてとても頭使って組み立てますし、インウォーターでも安全管理するためにずいぶん頭を使います。
それでもこのコースでは、マニュアル主義的な方法で、安全にダイビング運営ができるように、効率よくトレーニングを進めていきます。これは指導団体の定めるスタンダードを理解し理念を見通しクオリティを保つためにとても大切です。
一週間ほどのIDCの中で最もシンプルで安全な方法を考えて覚えて、現場で確実にコースができるようにトレーニングしていきます。
しかしこれだけでは完成とはいえません。
ニューインストラクターの皆さんは現場経験を積みながら、応用力を養っていくことが重要です。
応用力を最大限引き出すためには、IDCやIEC(SDI TDIでは、最終試験コースのことは、インストラクターエバリュエーションコースの略でIECと呼ぶ)の中でのコースディレクターやインストラクタートレーナー(SDIではコースディレクターの上位ランク)が候補生たちに、使用するマニュアルやスタンダードの意味を考えさせることがとても重要です。例えば、「なぜマスククリアはこの方法で行うのですか?」とか「なぜオクトパスは右出しなのですか?」など質問されたインストラクターが、「私のインストラクターからそうやって習ったから。」とか『それがルールですから』いう回答しかできないなら、それは思考停止しているともいえます。
インストラクター候補生や講習生たちからの様々な疑問に『なぜなら~』という回答ができることが理想です。
インストラクターを教えるコースディレクターやトレーナーが、指導団体が決めたカリキュラムをマニュアル主義でコースを開催するだけなら、コースディレクターはそれほど能力を発揮しなくてもマニュアルに従ってコースを進行することができます。
しかし思考停止していることを気づかせていくためには、インストラクター候補生をよく観察して、思考停止しているウイークポイントを常に刺激してあげる必要があります。
『思考停止しない』インストラクターであることが大事な理由
ダイビングインストラクターがマニュアル主義で完結することがなぜリスクなのか?
指導団体のマニュアルや優秀なインストラクターが考えたカリキュラムを使用するインストラクターがそのロジックをあまり考えないことにはリスクがあります。
たとえ、誰かが考えた秀逸なカリキュラムであったとしても(とくに同じスクールで複数のインストラクターのチームで指導するときには共通のカリキュラムは必須)なぜこのような組み立てなのかそのロジックの考えを巡らせ、自分が運用するときには、なにか落とし穴はないのか考えることはとても重要です。
マニュアル主義であってもそうそうアクシデントにつながることは少ないです。しかし、アクシデントは想定外のところでも起こるものです。アクシデントが起きたときに、「想定外でした。」では済まされません。想定外まで想定できる思考をもつことが、ダイビングがもつ潜在的リスクを打ち消していく大きな力になります。
そして私たちインストラクターは、ダイバーに最も安全なダイビング論を伝えていく伝道師です。ダイビングに関わる全ての事柄を理論武装することは時間のかかることですが、インストラクターになったときをスタート地点として、そこから、ダイビングの「なぜ??」にお答えができるようにブラッシュアップを続けていくことがとても重要です。
インストラクターアップデートの重要性
インストラクターが思考停止せず応用力を養っていくためには、日々の実務経験をどう思考しているかで差がついていきます。
よく思考するニューインストラクターにとって、実務経験は『気づき』の連続です。
しかし実務経験や置かれている職場環境だけでは、『気づき』にも限界があります。
さらなる『気づき』の可能性を引き出してくれるのが、アップデートトレーニングです。
もちろんダイビング以外の学びの場でも様々な『気づき』は得られますが、まずはここではダイビングのことだけにフォーカスしますと、トレーナーから習うスペシャルティインストラクターコースであったり、指導団体やリーダー的なトレーナーが主催するアップデートトレーニングであったり、テクニカルダイビングやフリーダイビングなど自分が経験していない分野のダイビングコースに参加することでも大きな『気づき』の機会を与えられます。
ダイビングインストラクターは日々、講習生に対してアウトプットをしています。人に教える立場の教育者には、アウトプットと同時にインプットの機会を多く作ることが、よりよいインストラクションの礎となります。
インストラクターの適性とは? インストラクタートレーナーのあるべき姿とは?
インストラクターには多岐にわたる様々な能力が必要とされますが、それぞれ得手不得手はあると思います。
体力、精神力、脳力、技術力そして様々なアウェアネスなどいろいろ。
では能力の低い人、劣っている人が事故を起こすのかというと意外とそうではないのです。
最も大切なのは、自分の能力を的確に把握しているかどうかです。
どんなに能力が高くても、自分を過大評価していたり、安全面で自分の持てる能力のぎりぎりでダイビングを計画しているインストラクターは、なにかがひとつ欠けたときに、アクシデントに対応できなくなります。やはり自分の能力開発はできるかぎり自身のトレーニングで行うもので、インストラクションの時には、能力の7割くらいの力で運営し、余裕をもたせること。これが安全に対するバックアップになります。
インストラクターとして適性のない人とは、自分を過大評価していたり、安全について周囲からアドバイスされているのに、『聞く耳を持たない人』です。必要なのはオープンマインドであることです。
もちろん指摘されるアドバイスの中には間違っているものもあるかもしれません。しかし思い込みで、他の意見に対して考えることなく、我が道を行く人の中には、素晴らしい能力を兼ね備えているにも関わらず、残念な結果となってしまった結末をたくさん見てきました。
インストラクター候補生の中で、自分のことを客観的に見ることのできない、いわばセルフアウェアネスが欠けている方や思考停止して決めつけてしまうタイプの人は、どんなに能力が高くてもインストラクターとしての資質の欠如を疑わなくてはなりません。
またIDCやIECの中でたとえ、基準ぎりぎりであったとしても、思考力やセルフアウェアネスが備わっている方なら、自分の能力の範囲で、無理せず安全範囲を策定して堅実にダイバーコースを運営していくことが想像できます。
またコースディレクターやトレーナーとは、インストラクターを裁けるような偉い立場ではありません。
私がSDI TDIのトレーナーとなり気づかされたのは、あくまで、候補生の能力を観察し、正当に評価する能力が要求されるということです。
トレーナーとは公平に広い視野に立ち、インストラクター候補生と関わりあうことが重要です。
すべての分野の最低基準をクリアすることは必須ですが、大切なことは全体的な能力のバランスです。
たとえウィークポイントがあったとしても、それを補う別の能力を備えているのであれば、インストラクターとしての資質に問題ないと考えるべきです。
インストラクターからインストラクタートレーナーまで含め、教育的評価者とは、批評家や裁判官など裁くような立場ではありません。
候補生に内在する素晴らしい能力を肯定的に引き出し評価し伝えられる能力。その候補生が、より良くなるために愛あるアドバイスを伝えられる能力。インストラクターやインストラクタートレーナーなどダイビングの教育者にはこのような姿勢が大切なのです。
written by かとう だいすけ
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